日本のローマ字表記が見直される:訓令式からヘボン式へ全面移行へ

2025年6月、約70年ぶりに、日本のローマ字表記が大きく見直される方針が公開された。これまで小学校や公文書などで使われてきた「訓令式ローマ字」は、国際的な通用性が低く、観光や行政手続きの現場でも混乱を招いていた。今回の見直しにより、より一般的で世界的に通用する「ヘボン式ローマ字」への移行が進められる。

なぜ見直しが必要だったのか?

訓令式ローマ字は、戦後まもなく定められた日本独自の表記ルールである。教育現場では長年にわたってこの方式が使われてきたが、実際にはパスポートや駅名表示、英語サイトなどではヘボン式が主流となっていた。そのため、日本語学習者や外国人観光客にとって混乱の原因となっていた。

訓令式とヘボン式の主な違い

仮名訓令式ヘボン式
sishi
tichi
tutsu
hufu
ziji
しゃsyasha
ちょtyocho

訓令式では規則的で機械的に変換できるという利点があったが、発音と表記がかけ離れている点が問題だった。ヘボン式は実際の発音に近く、英語話者にも自然に受け入れられる。

地名や人名の表記が変わる例

新しい基準では、以下のような地名・人名表記がヘボン式に統一される見通しだ。

旧表記(訓令式)新表記(ヘボン式)備考
AitiAichi愛知県
SibuyaShibuya渋谷区
TukiziTsukiji築地
SinzyukuShinjuku新宿
TitibuChichibu秩父
HukusimaFukushima福島
GihuGifu岐阜
AtugiAtsugi厚木

これらの地名は、すでに英語圏ではヘボン式で紹介されていることが多く、今後の標準化により混乱が減ると期待される。

長音の扱いはどうなる?

長音(「おう」「うう」など)の表記には、主に3つのパターンがある。

  1. マクロン付き表記(ō, ū など):例)Ōsaka, Tōkyō
  2. 母音の重ね書き(oo, ou):例)Oosaka, Toukyou
  3. 省略・慣習的表記:例)Tokyo, Sato

今回の改定では、原則としてマクロン付き表記が推奨される。ただし、パスポートでは引き続き「Ohno」「Ohtani」などの表記も許容される可能性がある。国際的な慣例を尊重しつつ、混乱の少ない運用が求められる。

「ん」のあとが m になる? → 今後は一律「n」

日本語の撥音「ん」は、従来は「b」「m」「p」の前で「m」と書かれることがあった(例:Shimbun)。しかし今後は、すべて「n」で統一される見通しだ。これにより、機械的な変換や検索の精度が向上する。

慣例表記はそのまま使用可

「yen(円)」「matcha(抹茶)」「Ohtani(大谷)」など、すでに国際的に定着している表記は、例外としてそのまま使用が認められる。あくまで今回の見直しは原則の統一を図るものであり、実際の使用場面では柔軟な対応が行われる見込みだ。

導入スケジュールと対象範囲

今回の改定は、教育・行政・交通インフラを中心に段階的に導入される。

  • 教育現場:小学校英語教育でヘボン式を基本とする指導に切り替え
  • 公文書・案内表示:駅名標識や道路標識などでヘボン式に統一
  • パスポート申請:希望に応じてマクロン表記も可能にする方向
  • 自治体名・団体名:既存の表記が広く使われている場合は例外的に維持

今後の課題と展望

移行期には一時的な混乱が予想されるが、長期的には国際的な理解と利便性が向上する。観光や海外ビジネス、日本語学習者の支援にもつながる施策であり、政府・自治体・教育現場の連携が重要となる。

そのとおり、マクロン付き(ō, ūなど)に切り替えると、現実的にトラブルが起こる可能性がある。特に、以下のような場面では注意が必要だ。

■ クレジットカードとの名前不一致問題

クレジットカードの名義は、アルファベットの大文字・半角英数字で登録されていることが多く、マクロン(長音符)を含めることはできない

たとえば:

  • パスポート:Tōru Saitō(長音付き)
  • クレジットカード:TORU SAITO(長音なし)

このような場合、航空券の予約やホテルのチェックイン、オンライン決済などで「名前が一致しない」と判断され、決済失敗や搭乗拒否につながるリスクがある。

■ 各種予約・公的申請でも整合性の問題

  • 航空券/ESTA申請/ビザ申請などは、パスポートと完全一致するアルファベット表記が必要
  • マクロン付きの氏名が導入されると、「Ono」「Ohno」「Ōno」などが同一人物なのか識別困難になるケースが出る

■ マクロン付きが使えないシステムも多い

  • 多くのWebフォームでは、ASCII文字(A-Z, 0-9)のみ入力可
  • Unicode対応していない旧システムでは、文字化けや拒否される可能性あり

■ 実際の運用方針(政府方針)

政府や外務省は、マクロン付きの名前表記は**「あくまで推奨」であり、必須ではない**としている。つまり:

  • 希望者は使用可(例:パスポートのローマ字欄を「TŌKYŌ」に)
  • ただし、従来どおり「TOKYO」でもよい

マクロン表記を用いるかどうかは、利用者本人が選べるよう配慮される見通し

■ 対策

クレジットカードや航空券、パスポートなど複数の公的・商用書類のローマ字表記を統一しておくことが重要

  • マクロン表記を使うなら、その文字を省略または代替(例:ō→ou)した形でも使えるようにしておく
  • 多くの人にとっては、今後も「Saito」「Toru」「Tokyo」といったマクロンなしの表記のまま維持する方がトラブルを回避できる

まとめ

日本語のローマ字表記が「訓令式」から「ヘボン式」へと大きく舵を切る。これは単なる表記ルールの変更ではなく、日本の情報発信や国際対応力を強化する一手だ。今後の社会全体の対応と共に、各人が表記の違いを理解し、適切に使い分けていくことが求められる。

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